ルマン出走車はどれほど速いか
「ルマンに出場する日産R390GT1は、日産スカイラインGT-Rなどのロード・カーをクラ シック・カーと思わせるほどだ。とにかくスピードがすごい」と日産ルマン・チームの星、ジョン・ニールセンは語り、こう続ける。「その接地力、加速力、制動力はまった
く信じられない。F1レースカーは24時間ではなく90分だけ戦えればよいように造られるが、日産R390GT1の性能はほとんどグランプリ・カーに匹敵する」。
耐久レースの中で最も過酷なルマン。この24時間レースで勝者になるには、信頼性の他にも、トップ・スピードが特に重要である。
「日産R390GT1はルマンの各ラップごとに5回ほど時速300キロ以上の最高速に達する。このトップ・スピードを1 km/hまたは2 km/hほど上げることができるかどうかで、24時間後の結果に大きな差がでてくる」とチーフエンジニアのスティーブ・ファレルは言う。ミュルサンヌ・ストレートで時速300キロにあとどれだけのスピードを加えることができるかという重要性は言うまでもないが、ファレルはそれだけを考えていればよいというわけではない。
「直線コースでの最高速をもっと上げることはできたろうが、コーナー通過の際の快適性の改善の方が必要だった」とファレルは言う。つまり、1周13マイル(約21キロ)のコースを350回以上走らなくてはならないドライバーへの配慮も必要なのである。「リアウィングを取り去って最高速を20 km/h引き上げることもできた。だが、そうすると車が危険になる場合がある」。
このような怪物車が出走するルマンの1つの見所は、ミュルサンヌ・ストレートでの加速である。一般車の8倍の出力の500ブレーキ馬力のレースカーが、通常は高速道路とし使われているミュルサヌ・ストレートの街路樹の中を、轟音とともにやすやすと300 km/hを越えて疾走するのである。なかには、ほとんどの国の制限速度の3倍に相当する350km/hを越える車もある。
「正直に言って、300 km/hと350 km/hとのスピードの違いを口で説明するのは難しい」とルマンの優勝経験者で今回は日産R390GT1で出場するヤン・ラマースは言う。「昔はシケインがなくてミュルサンヌ・ストレートは5マイル(約8 km)の直線コースだった。このため、375 km/hぐらいまでスピードを上げることができた。けれども、今では350 km/hがいいところだろう」。
「ドライバーは速いレースの方を好む。緊張感が持続するからだ。F1ではラップごとに千分の一秒づつタイムを縮めようとする。ルマンはF1とは違うが、速いリズムにうまく乗れなければ、ペースはおのずと落ちることになる」とこのオランダ人ドライバーは述べ、「けれども、日産R390GT1ではそんなことが起きないだろう。信じられないほど速いからだ。最高速をだすべきところで最高速をだし、ブレーキをかけるべきところでブレーキをかけることをラップごとに間違いなく繰り返すようにすることで、また、残りのラップが何周あるか考えることで、自分に最適のペースをつくっていけるだろう」と言う。
日産R390GT1のスピードが問題視されたことは一度もない。1997年の最初の出走日の予備予選で最高タイムをたたきだして以来、流線型の日産R390GT1は常にルマン出場車のペースセッターであった。
「車を速くすることは誰でもできる」と柿本邦彦チーム監督は言う。「けれども、最も速い車を造ることは愉快なことだ。今年はレースの初めから最も速い車であり、その終わりにおいても最も速い車でありたい」。
「スピードを向上させる上で重要なのは空力特性である」と日産R390GT1の設計者、トニー・サウスゲートは言う。これまでにもルマンやF1の優勝車の設計を手がけてきたサウスゲートはこう続ける。「私にとってこれ以上は速くできないという車の設計図をチームに渡した。スケール・モデル・テストの時点から速く、信じられないほどの正確さでトップ・スピードに達すると確信できたが、それでも、実際に速く走る姿を見ることは実に爽快だ」。
昨年は精妙に調整されたR390の空力特性を最後の時点で変更しなければならなかった。その結果、車の走行温度が予定よりも上昇し、信頼性に影響がでた。
「今年の空力特性の変更は車の設計全般に影響を与えるものではない」とサウスゲートは言う。「今年の車は若干速くなっているが、スピードを犠牲にすることなくダウンフォースを大きくすることができた」。
ダウンフォースとは車が走行する際に車にかかる空気の圧力のことである。スピードが上がれば上がるほど、車に対するダウンフォースは大きくなり、300 km/hで最高になる。
「ミュルサンヌ・ストレートではダウンフォースにより車重が2倍になると計算される。このダウンフォースの多くは巨大なリア・ウィングから得られる」とサウスゲートは語り、「ダウンフォースが大きくなることは良いことだ。高速ではロード・グリップが非常に大切だが、ダウンフォースにより接地性が良くなるからだ」と言う。
これは、ドライバーがルマンの最速直線コースで最もリラックスができるということを意味する。ミュルサンヌ・ストレートは以前から、ドライバーにとって体をほぐして次のラップに向けた心の準備をおこなう時間であった。
「そんなことはもうない」とジョン・ニールセンは言う。また、「直線路が短くされたからだ。そして、直線路に別の車がいれば、その車がこちらを見ているかどうか絶対に確認しなくてはならない。体をほぐす時間が若干ながらないわけではないが、ミュルサンヌ・ストレートもコースの一部である以上、追い抜ける車があるなら追い抜かなくてはならない」と言い、次のように続ける。
「直線部分で追い抜いた方がコーナーで追い抜くよりも危険が少ない。ルマンで成功するコツは、やさしく挑戦・運転をしながらも、それを俊敏に行うことだ。コーナーでバトルをやるつもりはない。直線部分まで待って、そこで追い抜きをかける」。
レースカーが最も速くなるのは、ドライバーが精神的にも肉体的にもきつくなる夜明け前である。のぼりたつ湿気、下がり続ける温度、タイヤ屑が広がるトラック、そんな夜明け前の状況でいつもルマンの最速記録は生まれる。
言うまでもないが、ブレーキはスピードと同じくらい重要である。日産R390GT1は巨大なブレーキ機構に加え、これをサポートするABSを装備している。
「僕の代わりに日産R390GT1に乗ってみるといい。そうすれば、トップ・スピードや加速力に対する驚きよりも、ブレーキに対する驚きの方が大きいことが分かる。日産R390GT1は、F1カーと出力は同じだが、車重が倍あることを忘れないで欲しい。信頼性の高いブレーキにきっと感動するはずだ」とジョン・ニールセンは言い、こう続ける。
「我々のブレーキング・ポイントはかなりコーナーに近い。このため、肉体にはかなりの圧力がかかる。ブレーキングによるGは大きく、ウィンドスクリーンから飛び出してしまうのではないかと思うほどだ。これはすなわち、ブレーキをライバルよりもかなり遅く踏んでもよいということだ」。
3Gにも達する制動力はドライバーにとって強い味方だが、レースカーにはかなりの負担となる。しかし、柿本監督は、堅牢に造られた日産R390GT1は24時間を通じこのような負担に耐えることができると確信している。
「ABS搭載で時間をかせぐことができる」と柿本監督は言い、こう結論する。「これに加え、トップ・スピードを上げたことによりラップ当たり3秒がかせげる。また、タイヤの改良でもタイムをかせげる。我々のライバルがこれ以上の努力をしているなら、行って握手をしよう。けれども、日産R390GT1がルマンで優勝できるだけ速い車であることは疑いの余地のないことである」。
以 上